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ロワール・ワイン偏愛

どうやら私は、ロワールのワインを偏愛しているようです。用いられている品種でいえば、シュナン・ブラン、ソーヴィニョン、ムニュ・ピノ、ロモランタン、カベルネ・フラン、ピノ・ドニス、ガメ、ピノ・ノワールなどなど。ロワールで優れた造り手のワインは、美しい酸が活き活きとした心地よさにあふれ、親しみやすさと温もりを感じさせてくれます。

1988年にワイン輸入会社の仕入れ担当になったとき、最初に選んだワインはヴーヴレ(ガストン・ユエ社)でした。おかげでヴーヴレに通いはじめ、いろいろな地域のロワールワインも積極に味わいました。偉大なフーコ兄弟作のクロ・ルジュアールはすでに他社が輸入していたので、お取引できませんでしたが、フーコと軍隊生活を共にしたギィ・ボサールが何度か連れて行ってくれました。熟成したクロ・ルジュアールの、あのなめらかで鼻腔を抜けるなんともいえない怪しい香りの虜になったのです。

良いコンディションの古いヴィンテッジを何度も味わって、カベルネ・フランにはまりました。
ですが、ラシーヌではなかなかお気に入りのカベルネ・フランが見つからず、2016年にようやくジェラール・マリュラのシノンに出会うことができました。カベルネ・フランを得意とするロワールでも、亜硫酸ゼロで美しく仕上がったカベルネ・フランは意外とお目にかかれないのが実情です。

当主のジェラール・マリュラは、シノン近郊でティゼ村外れに残る、ロワール川沿い西部でよくみられる、岩壁をくり抜いて設けられた原始的な横穴でワイン造りを行っています。ジェラールはロワールの醸造学校を卒業後、アンジュのヴァン・ナチュールの先駆の一人ジョー・ピトンで研修。その後2004~2013年までロワールの老舗メゾン、シャトー・ド・クーレーヌで働きながら、その仕事と並行して自身のドメーヌを2005年に創設。当初0.45haからスタートした畑は、現在は1950年植樹の古木カベルネ・フランの区画を含む3.2haにまで拡張。

亜硫酸無添加の醸造ですが、そのワインには、ロワールのカベルネ・フランに通有の、格調高さと気品、素朴と野趣がないまぜになっていて、目覚ましい滋味は感動的なほど。シノンが生んだ偉大な文豪フランソワ・ラブレーがもし口にすれば、必ずや絶賛し、呑兵衛の巨人ガルガンチュア(ラブレー代表作の主人公)にきっと何本も飲み干させたであろう味わいです。